1976年埼玉県生まれ。
駒澤大学法学部法律学科を卒業後、雑誌編集者の道へ。ストリート雑誌を経て、2003年からLEON編集部員として活動。
2006年に創刊編集長の岸田一郎氏とともに退社、雑誌ZINOの創刊に携わる。同誌が休刊した2008年にフリーエディターとして独立。
『MEN’S EX』、『GQ JAPAN』、『MEN’S CLUB』といったメンズ誌のファッションページを制作する傍ら、小学館にて『MEN’S Precious』(2022年に休刊)の創刊を手掛け、2020年までファッションディレクター、クリエイティブディレクターとして同誌を牽引。
クラシックファッションを軸に、ラグジュアリー、モード、ストリート、ヴィンテージ、エスニックといったあらゆる要素を織り交ぜた自身のスタイルにも注目が寄せられる。
現在はフリーエディターとして月刊『文藝春秋』などのファッションページを制作するほか、2022年1月に自らのウェブマガジン『ぼくのおじさん/MON ONCLE』を創刊。クラシックなファッションやカルチャーを若い世代に継承するために奮闘中。
『ぼくのおじさん/MON ONCLE』
https://www.mononcle.jp/
ARCODIO---いわゆるファッション業界のなかでは有名な山下さんですが、雑誌編集者という存在になじみのない一般の方々のために、改めてその経歴についてお教えいただけないでしょうか?
山下氏---私は1976年生まれなのですが、雑誌文化が最盛期を迎えた90年代に青春を過ごしたんです。海外のライフスタイルやまだ見ぬ名品の存在も、裏原宿のストリートから湧き上がってくるマグマのような熱気も、ヨーロッパ映画や渋谷系音楽といったサブカルチャーの存在も、ぜんぶ雑誌から教わった。熱しやすく冷めやすい自分の性格にもぴったりかなと思い、編集者の道を目指しました。
ありがたいことにフリーになってからは多くの雑誌の仕事をいただいてきたのですが、やはり思い出深いのが創刊に携わり、12年間も在籍した『MEN’S Precious』です。単なるトレンドだったりラグジュアリーな商品を掲載するのではなく、その背景にあるクラフツマンシップやカルチャーを深掘りしていくという編集方針のもと、自分が今までやりたかったことを全部やらせてもらいました。
世界各地の工房を取材したり、イスラエル、キューバ、モロッコ、ポルトガル、パリといった場所で、大掛かりな海外ファッションロケを敢行したり。おそらくこんな雑誌はもう二度とできないと思いますね。
ARCODIO---素晴らしい経験!!人生においての貴重な財産ですね。ファッションに興味をもったきっかけを教えてください。
山下氏---私の世代ではありきたりなのですが、1990年代前半の渋カジブームですね。高校生になってアルバイトができるようになったら、もう生活はファッション漬けです。とにかく飽きっぽくて、ライダースジャケットにエンジニアブーツを合わせていた数ヶ月後にはピタピタのパンツにM-51コートを合わせてモッズを気取っていたりする。かと思えばボウリングシャツにリーガルのサドルシューズみたいな50’Sスタイルや、ピタTにシドチェーン(笑)みたいなフェミ男スタイルもかじったり、実に節操がなかったです。シドチェーンを知らない方は検索してみてください(笑)。
ただ、90年代の若者のファッションって、つねに音楽や映画といったカルチャーと結びついていた。その気持ちは今も変わらないかな。
ARCODIO---そういったストリートスタイルから、どのようにして今のようなクラシックなファッションに行き着かれたんですか?
山下氏---やっぱりそれも雑誌の影響ですね。私が大学に通い出した90年代半ばくらいに〝クラシコイタリア〟というファッションムーブメントが勃発するのですが、当時は『BRUTUS』や『MEN’S EX』をはじめとする大人のメンズ雑誌が、こぞってイタリアや英国の工房を取材していたんですよ。いつか私もそういった職人たちを取材したいな、と思っていました。
でも、そんな意気込みで入った『LEON』は当時イケイケの時代で、上品なクラシックファッションなんて全く求められていなかった(笑)。なので、そういったスタイルを実際に着られるようになったのは、『LEON』を辞めてからですね。ピッティウォモなどでの海外取材がルーティンになってからは、いろんな工房を取材して、ビスポークの世界を堪能しました。
ARCODIO---これまでに世界中のよいものを見たり感じてきた山下さんにとって、ファッションってなんでしょうか?
山下氏---簡単に表現できないのですが、一着の洋服なりひとつのスタイルには、それが生まれた国の文化が凝縮されていると思うんです。
リベラーノ&リベラーノ(フィレンツェ)のスーツの、軽やかな着心地。バブアー(英国)のアウターの油臭さ。シャルべ(フランス)のネクタイのクセが強い配色・・・。キューバで本場のキューバシャツを買ったときは異常に雑な縫製に驚かされたんですが、ここの職人たちは仕事なんてさっさと終わらせて早く踊りに行きたいんだな、とか想像していると愛おしくなってくるんですよね(笑)。
もちろんいいモノは好きですが、そういう文化の匂いを嗅ぐためにモノを買っているので、単にクオリティが高いとか低いとか、値段が高い安いといった価値基準にはあまり興味がないんですよね。
ひとつのファッションアイテムには、それが生まれた文化的・地理的背景とか理由があるわけで、それを無視してただ豪華な素材を使ったからって、名品にはならないと思います。
ちょっと語弊があるかもしれませんが、ウニと大トロを合わせちゃうようなセンスはあまり好きじゃないというか(笑)。
ARCODIO---ご自身の装いについても、そういうことを意識されているんですか?
山下氏---海外でも日本でも、訪れる土地土地で暮らす人々や、その歴史に対するリスペクトというのは、気にしていますね。
キューバだったらリネンのスーツに現地で調達したキューバシャツを合わせたり、ロンドンだったらニッカボッカを穿いたりするので、現地ではおじいちゃんたちに大人気です。それでもコスプレにはならないように、マノロ・ブラニクの靴を履いていたりするんですが、まあ誰にも気づかれませんね(笑)。
そんなふうに、私自身はクラシックで土着的なモノやファッションが好きですが、今の世の中はそういう自分の気持ちとは正反対に進んでいることも、十分に理解しています。
モロッコの奥地の若者たちも、やっぱり古臭い民族衣装なんかより、ユニクロとかZARAが着たいわけですし。だから、自分の装いとか活動というのは、そういう時代に対する、竹槍レベルの(笑)ささやかな抵抗活動なんですよね。
ARCODIO---なるほど、山下さんの個性的なスーツスタイルには、そういう秘密があるんですね(笑)。では、そういうテイストを私たちがちょっぴり取り入れる秘訣があったら、教えてもらえませんか?
山下氏---一回SNSなどの情報を全部遮断して、季節とか自分が住んでいる風景の色を思い浮かべながら、じっくりと洋服を買うことかなあ・・・。すみません、実用的な話じゃなくて(笑)。
具体的に言えるとしたら、今は化繊とか高番手のウール生地とか、一年中同じような素材の服を着ている人が多いですよね。しかもだいたいダークカラーだったりして。夏ならリネン、冬ならツイードのように、その季節ならではの素材や色をもっと楽しんでほしいかな、とは思います。
食に関しても同じですが、そうすることによって、装いの感性はもっと磨かれてくると思うんです。ともあれ、私もまだまだです。いつか「コハダみたいな色のグレースーツ、ないかね?」みたいなオーダーをしてみたいですね!
ARCODIO---(笑)。スーツといえばドレスシャツも欠かせませんが、それを選んだり着たりするときに気を付けているポイントがあれば、教えてください。
山下氏---いわゆるビジネスマンではないので、皆さんの参考になるかどうかわからないのですが、ドレスシャツって着る人の個性を際立たせる額縁だと思うんです。だから極力シンプルで、余計なデザインの施されていないものを選びたい。おかずを引き立てる白飯みたいな存在が理想ですよね(笑)。そう考えると自然とあるべき姿が導き出されるでしょ?
白シャツを歴史上もっとも格好よく着こなした人って、小津安二郎とマルチェロ・マストロヤンニだと思うのですが、個人的には小津監督みたいなスタイルが理想で、彼のスタイルをオマージュした、レギュラーカラーのビスポークシャツをよく着ています。最近のレギュラーカラーと較べると、少しロングポイント気味なんですよ。
ARCODIO---そんな目の肥えた山下さんに、私どものシャツを見ていただくのはとても緊張するのですが(笑)、ARCODIOのシャツをご覧になっていただいた感想はいかがでしょうか?
山下氏---それがちょっと驚いてしまったんです。実はモノを見るまで、ある種の合理的思想でつくられたシャツだと思っていたんです。要するに大量生産によるスケールメリットと、無駄なディテールを省略することによって、そこそこ上質なものを安く提供するという。でもこれ、なにも省いていないですよね?
ブロードやツイルは単に高番手というだけではなく、ちゃんとハリコシがあって、着たときのドレープがとてもきれいに出る。しかも襟や袖がボディに対して立体的に付けられているから、着ていてストレスを感じさせません。アームホールはハンドステッチだし、ボタンは厚手の白蝶貝だし、単なる実用品ではない。
コバのキワまで端正なステッチを入れた襟の表情を含めて、確固たる美意識のもとにつくられた、嗜好品としてのシャツですね。ご飯でいえば、粒が立ったツヤツヤの銀シャリかな(笑)。若い人にも試してもらいたいですね!
ARCODIO---私たちは今までの常識を覆し、本当にいいモノを沢山のお客様が手に取りやすい価格にしてお届けすることにこだわっているんです。値段がリーズナブルなのは、大量生産ではなく、実店舗を持たないことや、生地は白とサックスブルーの無地に限定し、色・柄の豊富なバリエーションを持たないこと、商社や問屋を通さずに海外の工場へ原料を直送することなど、流通や販売における工夫によってこの価格を実現しています。
山下氏---マストロヤンニ的なスタイルは、ここのセミワイドカラーのシャツがあればつくれちゃうなあ。欲を言えば、私が好きな小津的レギュラーカラーとか、普段着ているバンドカラーシャツもあると最高ですが(笑)。
ARCODIO---バンドカラーシャツはちょうど作製したところですので、ぜひお召しください(笑)。
話は変わりますが、このコロナ禍によって、ファッション業界はそれも取り巻くメディアも含めて、大きく変わったと思います。そんな環境を山下さんはどのように捉え、これからの活動を見据えておられますか?
山下氏---〝最短で稼ぐ〟とか〝無駄を省いた生き方〟ばかりが持て囃される時代にあって、それらと最も相性が悪いのがクラシックなファッションやカルチャーでしょう。
暑い夏にわざわざリネンのスーツを着たりネクタイを締めることに、なんの意味があるのだろう?なんていう今の傾向は、そのうち「海外旅行なんてバーチャルでいいじゃん」みたいな考え方にも直結します。
なんなら、現実に存在しなくてもいいということになりかねない。
この世界が長い時間をかけて培ってきた文化に対する敬意や想像力を、ちゃんと次の世代に残さなくては、取り返しのつかないことになってしまうのではないか? ・・・ちょっと大袈裟かもしれませんが、そんな危機感から立ち上げたのが、『ぼくのおじさん/MON ONCLE』なんです。
『ぼくのおじさん/MON ONCLE』
https://www.mononcle.jp/
ARCODIO---読み応えのある内容で、楽しく拝見させていただきました。ファッションに限らず、様々な情報を発信されているのが新鮮ですね。
山下氏---クラシックなファッションはクラシックなレストランや街並みから生まれてきたものだし、すべての文化は繋がっているんですよね。そして、一度失われてしまったら、もう二度と取り戻せない。そういう文化を軽んじるものに対しての、抵抗としてのメディアなんですよね。
ただ、嬉しい誤算というか、私が思っていたよりも多くの若者に支持されていて、今のところ読者の中心層は20〜30代。
小さな世界ではありますが、確実な手応えを感じています。
大量生産ではない、しかもフェアなやり方でああいったシャツをつくっているARCODIOさんにも、私は勝手にそういった思想を感じています。ぜひドレスシャツという文化を、次世代に繋いでいってほしいですね!
モデル:スリムシルエット ALBERTO(アルベルト)
Size | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 37- Long |
38- Long |
39- Long |
40- Long |
41- Long |
首周り | 37.8 | 38.8 | 39.8 | 40.8 | 41.8 | 42.8 | 37.8 | 38.8 | 39.8 | 40.8 | 41.8 |
着丈 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 | 82 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 |
肩幅 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 |
バスト | 102 | 106 | 110 | 114 | 118 | 122 | 102 | 106 | 110 | 114 | 118 |
ウエスト | 88 | 92 | 96 | 100 | 104 | 108 | 88 | 92 | 96 | 100 | 104 |
裾周り | 100 | 104 | 108 | 112 | 116 | 120 | 100 | 104 | 108 | 112 | 116 |
AH | 43.8 | 45.3 | 46.8 | 48.3 | 49.8 | 51.3 | 43.8 | 45.3 | 46.8 | 48.3 | 49.8 |
裄丈 | 83 | 84 | 85 | 86 | 87 | 88 | 86.5 | 87.5 | 89 | 90 | 90 |
カフス周り | 20 | 20.5 | 21 | 21.5 | 21.5 | 22 | 20 | 20.5 | 21 | 21.5 | 21.5 |
カフス幅 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 |
(単位:cm)
●首まわり:
お洗濯後の縮みを考慮し、サイズ寸法+0.8cmとなっております。
●バスト・ウエスト・裾幅:
フロントボタンを閉じた状態でシャツを平たい場所に置き、両面を測った実寸です。
●AHとは:
アームホールをさし、身頃と袖の縫いまわりになります。
●袖の長さ:
一般的にシャツは【裄丈(ゆきたけ)】の長さをみます。
※裄丈-Longは通常よりも裄丈が長い商品です。37-Longから41-Longまでご用意しております。
袖の長さ調整をご希望のお客様は、お手持ちのシャツの裄丈の長さと比較していただき、ご購入の際に【裄丈修理】でご希望寸法をご指示ください。
●シャツの測り方について
詳細は、【シャツの正しい測り方】ページをご覧ください
サイズについてご不明点がございましたら、遠慮なく【CONTACT】までお問い合わせください。